2008年某日、俺は大乱闘スマッシュブラザースに参戦することになった。
しかしこれはまだオフレコだ。俺は隠しキャラだからな。
俺がプレイ可能キャラクターとして公表されるまではしばらくかかる。
だが今のうちにやっておかねばならないことがある。

俺の紹介ページの写真撮影である。


「それではスネークさん。貴方のCQCの実装済みを実証する写真を撮らなくてはならないのですが…。」
今、俺に話しかけて来ているのがマスターハンドという、よく分からないが巨大な『手』だ。
この世界の統括者のようだ。

この世界にきて第一に驚いた事は、人間以外の者も二本足で歩き、喋る事だ。
こいつに至っては足も無いが空中に浮遊し、口もないが丁寧な口調で話し掛けてくる。
なんとも度し難い。

「メインは貴方ですから、貴方の姿がちゃんと写るような体格の相手を選ばなくてはなりませんね。」
誰にしましょうか…。
二人(?)で考えあぐねた結果、やはり女性は除外された。
貴方が悪役の様に写ってしまいますね、などと笑われながら言われた。
「…じゃあ、リンク、ちょっと。」
そう言って連れて来られたのが、緑の服を着た青年である。
ファンタジーのような服装だ(ここの者は大半がそうだが)。
「ちょっと、スネークさんの写真撮影を手伝って下さい。」
「あぁ、はい。いいですけど…。」
慣れているのか、すんなりOKがでた。
「すまんな。」
「いえいえ。」
彼はニコリと笑って返した。
「それではお願いします。」
カメラを構えた巨大な手が言った。
「では、いくぞ。」
「はい!」
俺はいつも敵兵にするのと同じように彼につかみ掛かった。
右腕を背後でしっかりと固定し、口を塞いで頭を反らせる。
「んぐっ…!」
苦しそうな呻きが聞こえたので若干緩める。
抵抗はしてこないので怪我をさせる事はないが、写真撮影であまり締め上げるのも可哀相だ。
「あ、駄目だ。」
はっと何かに気がついた様に巨大な手が言った。
「リンクの耳でスネークさんの顔が隠れちゃっていますね。」
デジタルカメラを俺の所に持ってきて見せてみせる。
「そうだな…。」
「んぐぐ…。」
「む、すまん。」
CQCから解放すると膝に手をついて荒く息を吐いていた。
「だ、駄目でしたか…。」
「その様だ。すまんな。」
「い、いえ…こちらこそ…。」
つられて謝る青年をみていると、人が良いせいで色んな事を手伝わされているのが容易に想像出来た。


「さて、ではどうしましょうかね…。」
また考えながら、一つ一つ案を口にしていった。
「ポポやネス、リュカだと少し小さすぎますね。」
「キャプテンファルコンならどうだ。」
「いやぁ、彼と貴方だとちょっと…。」
何やら言葉を濁すので引っ掛かった。
「何が問題なんだ。人型だし体格も無理がないだろう。」
「絵面的に少し…問題が。」
なるほど。紹介ページに使用するものなのだからその辺りにも気を遣うのか。
「マルスにしてみましょうか。彼なら丁度良いでしょう。」
「誰だ、そいつは。」
「あそこの、彼ですよ。」
巨大な手が指差す先に青年がいた。
同じくらいの年格好の者と何かを話しているようだったが。
「アイクもいますね。マルス、アイク!」
手が呼ぶと二人がこちらを見た。
二人に事情を話すと、一人の青年の表情は変わらなかったが、一人の方は綺麗な笑顔を浮かべた。
しかしそれに俺は、少し息苦しくなるような感覚を覚えた。
「僕より、アイクの方が適任だと思いますよ。」
笑顔を崩さず、そう言う彼からは、何とも言葉にしがたい雰囲気が発されていた。
強いて言葉にするなら『殺気』だろうか。
「…俺か?」
いるとしたら、ここにいるのはお前だろう。と思いながらそちらを見た。
「そう、君の方がいいよ。うん、そういうの似合うと思うし。」
どういう意味なんだ、それは。
「…分かった。俺は別に構わん。」
とくに何とも思わないような顔で彼は答えてきた。
マルスという方は相変わらずその笑顔を絶やさないし、結局、そいつに頼む事になった。


いざ対峙してみると、奴の右手には巨大な剣が握られていた。
それこそ中世時代にあった、見栄を張った傭兵が持った物のように馬鹿でかく、とても現実味を帯びない物だ。
今回はあれで斬り付けられることはないとはいえ、やはり恐るべきものには変わらない。
あんなもの、実際に斬られたら人の体など真っ二つではないだろうか。
「俺はいつでもいい。」
そういいながらその獲物を肩に担ぎ上げて見せた。
さらに恐ろしいのは、その剣を片腕で振るっているこいつの腕力だ。
一体こいつの体のどこにそんな力があるというのか、小さいわけではないがでかくもない身長に見合う程度の筋力しかついていないように見える。
「では、ゆくぞ。」
マスターハンドからのGOサインが出たのを確認して、俺はアイクに掴み掛かった。
しっかりと技がはまったのを確認して、アイクの体を締める。
「・・・・・ッ」
わずかに身をよじったが、おとなしくしている。
息が上がっているのを口をふさいだ手で感じた。
「ちょっと、そのままで。アイク、スネークの方を見ないで。こっちも見ちゃダメです。」
マスターハンドから指示が飛んでいる。ちらり、と目が合ったが、すぐさま逸らされた。
しかし、こうして触れてみると、やはりアイクの体格は人並みだ。
しっかりと鍛えられた筋肉はしなやかで無駄がないが、まだ成長途中であるのが分かる。
大人になったらそうとうでかくなるだろう。
「スネーク、ちょっと緩んでますよ。手加減しているのが分かってしまうのは良くないです。」
「すまん。」
言われて、改めて体を締めなおす。アイクが喉の奥でくっ・・・と呻いた。
それからしばらくそのままの格好で写真撮影は続いた。


「はい、OKです。二人ともお疲れ様でした。」
マスターハンドがOKのサインを出した。CQCを解除してやるとアイクは少し顔を顰めて息を乱している。
いや、こいつは元々こういう顔か?
「とてもいい絵が撮れました。これでばっちりですね。後まだ撮影するものもありますので、また今度協力をお願いします。」
「・・・あぁ。」
顰めた顔のままアイクは答えていた。怒っているわけではないのだろうが、いまいち表情の読めない奴だ。
打って変わって、マルスの方はというと、なにやらニヤニヤとしながらアイクに歩み寄ると手を差し伸べていた。
「アイク、顔真っ赤だよ。」
「・・・・・・・・・。」
素直にその手を取り、背筋を伸ばすと何か考えるように黙り込んでいた。
「じゃあ、用事は済んだみたいだし、僕はいくね。」
ヒラヒラと手を振ってマルスは去っていった。
その場に俺とアイクだけ残されて、しばらく重い沈黙が続いた。
「あぁ、お前、その・・・。悪かったな、手伝わせて。」
とりあえず礼は言っておかねばと思い、声をかけた。
相変わらず何か難しい顔をしていると思ったら、思いもよらない言葉が返ってきた。
「それは別に・・・いい。・・・あんた、煙草を吸うのか?」
煙草?確かに吸うがそれが・・・まさか。
「確かに吸うが、お前煙草の臭いが嫌いだったのか?」
それはすまないことをした、というと「いや、そういう訳じゃない。」と言った。
「煙草の臭いなんか、久し振りに嗅いだから。」
なんだ、その理由は。確かにこの世界に煙草を吸いそうな輩はそう居そうにないが。
「・・・・とりあえず・・・。今日の事の礼はする。今度メシにでも連れて行かせて貰おう。」
「・・・本当か?」
メシ、と聞いたとたん、心なしか目が輝いた気がする。
「あぁ。好きな物、いくらでも食わせてやる。」
こんな事で喜ぶなら、可愛いところもあるものだ。



そして約束の日、アイクが肉が食べたいというので、とりあえず肉のうまい店に連れて来た。
俺にはもう肉ばかりの料理は胃に重いのだが、やはり育ち盛りの男児は肉が嬉しいのだろう。
「好きな物頼め。遠慮はいらん。」
「いいのか?」
「あぁ。」

さて、
伝説の傭兵の財布VSアイクの胃袋(肉料理)勝敗はどちらに?







一方のマルスはというと・・・。

「なんでマルスはスネークさんの撮影に協力してあげなかったの?」
赤い髪の可愛い恋人に聞かれてマルスはにっこりと笑って言った。
「あんなむさ苦しいオッサンに掴み掛かられるのは乱闘だけで御免被りだからだよ。」
彼の白い頬にキスをして、ぎゅっと抱きしめながらそんな事を言っていた。







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