マルスはよく贈り物をくれる。
中でも多いのがミントを使った物。

ミントの花束、ミントティー、ミントのチョコレート・・・。

そうやって手元にたまったお菓子を持ち寄って皆でお茶をすることが時々あった。
今日はリンクさんと一緒に。当の本人がいないが、乱闘中だから仕方ない。
彼がくれたミントティーをいれ、彼がくれたミントの香りのするクッキーを頬張る。
上品な甘さとミントの胸がすうっと涼しくなるような香りが広がった。

「僕、そんなにミントが好きって言ったことあったかなぁ。」
指先につまんだクッキーを眺めながら呟いた。
リンクもクッキーを摘みながら首をかしげる。
「王子が好きなのでは?」
「そうだったかなぁ・・・?」
特別好きってわけじゃなさそうだけど…。
「あら、素敵な香り。どうしたの、それ。」
ふと声を掛けられ、見るとゼルダが立っていた。
くっきりとした目元が今は細められ、薄紅色の唇は柔らかく湾曲を描いていた。
「ゼルダ姫。」
「ご一緒してもいいかしら。」
「もちろん!」
リンクは勢いよく椅子から飛び降りてゼルダの椅子を引いた。
手際よくお茶をいれ、彼女の前に差し出すとまた席についた。
「ありがとう。」
さっそくカップを手にして香りを楽しむ。まるで一枚の絵の様なそのさまに男二人はほおっと息をついて見守った。
「いい香り。選んだ方のセンスがあらわれているわね。ロイのなの?」
「ええ・・・これはマルスがくれたんです。」
「そう…。」
一口、口内へ含み舌の上で転がす。鼻腔を抜けるミントの香りを味わうように深く静かに呼吸した。
「マルスはよくミントを使ったものをくれるんです。花束とかお茶とかお菓子とか…どうしてかなぁって今リンクさんと話してて…。」
「…まぁ、王子ったら、一途なのね。」
くすりと小さくゼルダが笑った。言われた意味が分からず、ロイは「え?」とこぼす。
「ミントを恋人や夫婦が贈るというのはね『他の人を見ないで、自分だけを見て。』という意味なのよ。」
ロイの頭の中に送り主の顔が思い浮かぶ。いつも涼しげな彼の中に潜む燃え上がるような情熱的な焔。
その炎にあてられると、まるでもらい火をしたように自分の中で燃えるもの。
「いつから王子は貴方にミントの贈り物を?」
「…結構、前から…。」
「そう…じゃあ、いつ気付いてくれるのかと、内心やきもきしていたのかもしれないわね。」
王子にも可愛い所があるのね。と、ゼルダは鈴を鳴らすようにコロコロと笑った。

そんないまさら…。
僕だってずっと……。


そう思いつつも思い浮かぶのは彼の背中ばかり。
風にたなびく彼の髪と同じ色の青色が目の前いっぱいに広がって…。


「すみません。」
ガタリと音を立てて、ロイは立ち上がった。
「急用が出来ました。ここで失礼いたします。あとは、ご自由に召し上がってください。」
そう言って、ロイは足早にそこから去っていった。
残された二人は彼の背中を見送りながらミントティーを啜った。
「本当に、仲がいいのね、あの二人。」
柔らかな声でゼルダが言い、笑った。
今度自分も試してみようかな、とリンクが考えているなどとはつゆ知らず…。



「マルス!」 呼び止められて振り返ると、赤い髪の愛しい人が息を切らせている。
「ロイ?」
不思議に思ってそう声を掛けたが、ロイは何も言わずに右手を突き出した。
その手に握られているのは、桃色の可愛らしい布に包まれた土の中で小さな芽を出している苗だった。
「…ミン…ト…?」
彼はこちらを見ない。その髪の色に劣らず頬を赤く染めて俯いたままうなづいた。
その姿がなんともおかしく、また愛しく、マルスの頬は柔らかく緩んでいった。


「いつも見ているよ。君だけを、ずっと。」




薫り高く美しく。
あの青い空に抜けるような香りのこの葉は、まるであなたのよう。



-end-







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