「はい、アイク。」
「ん、すまんな。」
パンにチーズと干し肉が挟まれたものと、水。
監視で動けないアイクのかわりに食料を調達してきたピットが帰ってきた。
「動き、なし?」
「あぁ。夕暮れまではないだろう。」
月光が射していた天井からは、今は暖かな斜陽が降り注ぎ、漆黒の棺を照らしていた。
目覚めてからずっと見てはいたものの、やはりバンパイアは昼に動かない。
それも間もなく終わりを告げ、二日目の夜が訪れようとしていた。


重苦しい音を立ててそれは開いた。
むくりと起き上がった体がアイクとピットの方を向くと、眠たそうな赤い目が二人を映す。
「・・・あぁ、おはよう・・・。君たちちゃんと寝たの?仕事熱心なのには感心だけど、肝心の本番までに倒れたら元も子もないよ。」
相変わらずの皮肉を言いながら、ゆっくりと立ち上がって中に浮いた。
そして昨日と変わらずの位置に座り、月を眺めだした。
「・・ピット?」
アイクが言うが、ピットも翼をはためかせるとその後に続いた。
屋根に降り立つとマルスが彼を見る。
「・・・まだ話を聞くつもり?」
「・・・話してくれるなら聞くよ。」
マルスはしばらく黙っていたが、右手でマントの端を掴み、ふわりと持ち上げた。
「聞きたかったらここまで来てごらん。」
悪魔の懐へ。ピットはしばらく動かなかったが、ゆっくりと近付いてマルスの隣に座った。
流石のアイクもそれを見て少し焦ったが、マルスはピットの肩にマントを掛けただけだった。
「君も相当変わった天使だ。」
「話してよ、それからのこと。」
茶化すように言うマルスに、ピットはそう促した。
マルスはぼんやりと空を眺め、また語りだした。

それからのこと、ねぇ・・・。


僕は人に会わなくなった。政務もほっぽり出して、書庫をあさるのに夢中になった。
調べ続けていたのは死者蘇生の禁断の呪術。僕はロイを取り戻すことを試みた。
寝食も忘れ研究に没頭する毎日。王の不在で臣下どもが担う政治に荒れていく国。
特に城下が酷いありさまになっているのは知っていた。しかし僕の心は冷める一方だった。
あの凶行が僕の不甲斐なさを正すためだというのなら、その不甲斐なさが不満だと言うのなら、好きにすればいい。
ロイのいない国など、ロイを殺したこの国など、僕にはもう守る理由がない。
自分の我侭と傲慢さも怒りや憎しみや悲しみに塗りつぶされて、僕は事実、国と民を棄てた。

そしてとうとう見つけた。彼を蘇らせる方法を。
それは彼がいつも身に付けていた衣に千の年月、月の光をあてることだった。
そうすることで月の魔力が宿り、その衣を媒体に彼はたった一夜、蘇る。
完全なる肉体の蘇生は無理だった。彼自身の遺体も葬られて久しい。手元にあるのは遺された彼の赤い服だけだ。
僕はこの方法に懸ける事にした。
一夜かぎりでもいい。彼に逢いたかった。

問題は、千年というところだ。人間である以上、それは到底無理な話だ。
僕は人間の身を捨てバンパイアになることを決めた。
人の生き血さえ吸えば永遠に近いほど生きられる悪魔に。


「その頃、城下は荒れに荒れ、とうとうクーデターが起きた。反乱した民達が城へ攻め入り、諸大名達を次々と血祭りに上げ、僕の所にまで来た。その後は・・・君たちが知っての通りさ。」
「・・・じゃあ、その布は・・・。」
知る限り、彼が大事そうに抱え一度も手放していない赤い布。良く見れはそれは服だった。
「そう、ロイが着ていた服だよ。僕はずっとこの服を抱いて月の光を浴び、彼が蘇る日を待っている。」
執念。その言葉に相応しいものだった。
想像もつかない年月を彼は一人で過ごしていた。かの人を思い続け、ずっと。
「三日後に大事な用があるって・・もしかして。」
「その通り。三日後があれから丁度、千年。今ここで倒されたら死んでも死にきれないからね。」
そう言ってマルスは笑った。風が優しく彼の頬を撫でた。

「彼を想い、彼の服を抱いて千年の夜、月の光を浴び、彼を想い、彼の夢を見て千年の昼、太陽の光を閉ざす。
 そうして僕は生きてきた。人々の血を吸いながら。」

語る口調は恍惚と、しかしどこかで自分を嘲るようなものだった。
自分の行いを愚行とするか、貫き通した信念を確固とするか、定めつつも決めかねるような。
「それからは・・・?それからアンタはどうするの?」
聞かずにはいられない。その後、マルスはどうするのか。
待ち続けた人に逢って、でもそれはたった一夜の夢。また彼はマルスの腕から消える。
ずっとその日を夢見て人の体と道徳までもを捨てて生き続けてきた彼は、それからどうするのか。
「・・・・・さぁねぇ・・・。下の彼に斬られるか、僕が彼を斬るか。それによるね。大人しく斬られるつもりはないけど。」
彼は不敵に笑う。でもその瞳はどこか哀しげだった。
「・・・アンタは一人じゃないよ。」
ピットがポツリとつぶやいた。マルスは懐のピットに目線を落とす。
「アンタは一人じゃない。アンタを見守ってくれている人がいる。ずっと、アンタの傍に寄り添ってくれている人がいる。
 ・・・もう、やめなよ。もう苦しまなくていいよ。」
もう許してやりなよ・・・自分を・・・。
最後の言葉をピットは言うことが出来なかった。マルスも黙ったままだった。



月下の魔王。
街の人間がこいつの事をそう呼んでいた。
塔の頂で月を眺める悪魔。夜空に飛び立ち闇に溶ければ、誰か一人は生きて朝陽を浴びられなかったという。
街の人間は皆、あれが元々この国の王子だということを知っていたのかもしれない。
恐怖だけではない。畏敬の念が込められた呼び名。
こいつと対峙したとき、その呼び名が大げさではなかったと知った。
放たれる威圧感、揺るがない威厳。何よりも隙がなかった。
隙さえあればたとえ一瞬でも斬り伏してしまおうと思っていたのに。
この三日間は俺にとっても心の準備をする期間になる。
明日、俺はこの悪魔と戦う。死ぬかもしれない、と思う。正直、勝てる見込みは五分五分だ。
けれど逃げようという気は、不思議と沸いてこない。寧ろ、早く明日になればいいと思う。
あいつらと共に月の光を浴びながら、俺の心は不自然なほど落ち着いていた。

「アイク。」
突然に声をかけられ見上げると、あいつがゆっくりを降りてきた。
小脇にはまたピットを抱えている。しかし今度は眠っているようだった。
「昨日はあれだけ警戒しておいて、今日はこれだよ。」
呆れたように、ため息と苦笑を浮かべて俺にピットを突き出した。
俺は戦うのを止める気はない。だけどもう一度だけ、聞いてみたかった。
「本当に、いいんだな。」
多くの言葉を省いても俺が言わんとしている事は通じたようで、マルスは目を細めて言った。
「僕はもう、そう決めた。」
促すようにもう一度押し付けられ、俺はマルスから目を逸らす事が出来ないままピットを抱えた。
奴はふっと笑って、昨日と同じ様にまた上へと戻っていった。
今の笑顔も、さっきの目も、確かに迷いは感じられなかった。
だが、切ないような、苦しいような、そんな色をしていた。

見た目では俺とそう歳は変わらない様に見えた。
そんな人間が一国を背負い、大切だったものをその国の為に奪われ、哀しみに狂って悪魔になった。

それは一体、どれほどの重荷で、どれほどの絶望だったのだろう。

「迷いを断ち切れていないのは俺か・・・。」
戦うのを止める気はない。しかし最期の一撃を俺は振り下ろせるのだろうか。
かぶりを振って倒すべき相手をもう一度見上げた。
風に吹かれる奴の後姿を見て、俺は心を奮い立たせた。



それから半日の時間が過ぎて、もう一刻ほどでまた太陽は沈む。
俺は黙ってラグネルをかざし、見上げていた。いつもうるさいピットも今日は言葉少なだった。
廃城がゆっくりと夜の闇に沈んでいく。吐く息の白さが際立つ。
ラグネルの柄を握り締め、冷たい空気を胸いっぱいに吸って深呼吸した。

「いよいよ・・・かな?」
マルスは笑う。複雑な思いが絡み合い、胸に詰まるような笑顔にアイクとピットは何も言えなかった。
そしてまた同じ様に上へと登っていく。
雲もなく、綺麗に澄み渡った夜空。マルスはそれを見て心持ほっとしたような顔をした。
いつもの位置に座り、いつもより赤い服をぎゅっと握り締め、時を待っていた。


目を閉じるだけで、昨日の事のように蘇る情景があった。
夜中、外は冷たい雨。音もなく降り注いでいる。
部屋は暖炉の暖で満たされ、何よりもすぐ傍に愛しい君がいた。
一糸纏わぬ姿で抱き合って、荒げた息を互いの肌で感じた。
彼の背中に腕を回し、自分も人の事を言えないが折れそうなほど細い体を抱きしめると、胸に耳を当てた。
ドクン、ドクンと鳴る鼓動を聞きながらゆっくりを目を伏せる。
「・・・この時が永遠に続けばいいと思う。」
偽りでも、大げさでもなくその言葉がこぼれた。しばらくして君はこう言っていたね。
「それは駄目だよ。」
どうして?聞き返して顔を見上げると、君の顔は優しかった。
「マルスには、この国の立派な王様になってもらわないと。」
「ひどいなぁ。」
上半身を起こして組み敷いた彼を見ると、伸びた腕がそっと僕の頬を撫でた。
「マルスが王様になった姿を見たいんだよ。」
「それにはお妃様を貰わないといけないんだけど?」
古く絶対的なそのしきたりが僕たちを別つ。それを君は望むのか?
「この国の唯一、正統なる王家の血筋を持つ王子・・・そのマルスも僕は大好きだよ。でもね。」
ベッドが軋んで、起こした体を僕に預けた君は、甘えるように頭を擦り寄せた。だからその表情は分からなかった。
「そんなマルスが王様になって治めるこの国は、きっと素晴らしい国になる。そう思うんだ。だから・・・僕は・・見たい。」
降り注ぐ雨と共に夜は更けていった。それを止める術など、僕にはなかった。


「僕がこの国の王になった姿を見たかった・・・か。」
その前に君は死んでしまったけれど。それでも君の願いは変わらなかったのかもしれない。
「僕に怒っているかい?ロイ。」
一人になってから何度呟いたか知る術も無い、愛しい彼の名前。
「会いたいよ、ロイ。」
突然、僕の目の前から消えてしまった君。
せめて、もう一目・・・。

その想いが全てだったんだ。

その時、彼の赤い服がほのかに光だし、ふわりと宙に浮いた。
風に吹かれ踊るように靡いたかと思うと、細い布に千切れそれが形を成していく。
古ぼけた服はその赤を取り戻す。鮮烈に輝いて。

そうして僕の目の前に現れた君は、千年前と何一つ変わりはしなかった。



「・・・ロイ?」
名前を呼ぶと、彼はゆっくりと頷いた。
不思議だった。それ以上、言葉が出なかった。
あれほど会いたかった君なのに。そのためにいろいろなものを犠牲にしてきたのに。
目の前にいる君の赤色が何よりも眩しくて、懐かしくて。

愛しくて


二人は黙ったまま見つめ合っていた。
そしてどちらからともなく、手があがると、合わさった。
言葉に出来ない想いをどうすればいいのか、二人は知っていたのだ。
お互いが人間として生のあった頃、二人きりのダンスホールで踊ったワルツ。

その舞台を夜空に変えて
今、蘇る



二人の悪魔は、夜空を舞った。
近付き、離れ、寄り添い・・・それを繰り返し、二人の表情は優しくて、切なくて。
覗く隙間からアイクとピットはその様を見つめていた。
二人の踊った軌跡を、光の粒子が追随する。それはあまりに美しくて、アイクとピットは何も言葉が出なかった。
いつかは再び永遠の別れが来る。二人の逢瀬を邪魔するものはいなかった。


しばらく、時間にして数時間。
今の季節の月は、夜明けを待たずして降りようとしていた。
息を切らすこともなく踊り終えた彼らは、そっと抱きしめあっていた。
二人に言葉はなく、ただただ一時も離れるのが惜しいと言う様に。

「嫌だ・・・!」
彼を抱きしめたまま、顔を上げたマルスは泣いていた。
白い頬に涙が伝い、慟哭に長い八重歯が覗く。
「いかないでくれ・・・!ロイッ・・・!」
マルスの胸に頭をうずめていたロイは、ゆっくりをそれを横に振った。
「ずっと・・・ずっと・・・気が遠くなるほどの長い間、君を待ち続けていた!君を想い恋焦がれ、ただひたすらに願ったんだ!!」
会いたい。声が聞きたい。僕の名前を呼んで欲しい。君に触れたい。抱きしめたい。
「なのに・・・これで終わりだなんて・・・!」
止まることのないマルスの涙が寒空の中、落ちていった。
ロイの顔は切なそうに歪んでいた。しかしマルスを見上げると、その頬を両手で包み涙を拭った。

そしてそっと、その唇に口付けをした。
涙にぬれた瞳を伏せ、マルスもロイに応える。
何度か優しくついばむように。そして目にもキスをして。

ロイは笑った。

『マルス。』
「・・・!ロイ!!」

白く、柔らかな光に彼は包まれていった。
消えてしまう。瞬間的にそう察し、マルスは失うまいと彼の体を強く抱きしめた。
しかし手ごたえは頼りなく、見ると彼は端からするするとほどけていた。
優しく、マルスの頬を撫でる。マルスはその手と自分の手を重ね、その感覚を忘れまいと押し付けた。

『ありがとう。』

澄んだ、声。
その声は少しも、1000年前と変わらなかった。

これからどんなに時を経ても

僕はマルスを

愛してる 



その言葉を残し、ロイは消えた。
マルスは風に吹かれ靡く布きれを抱きしめながら、しばらく泣いていた。




マルスが降りてきたとき、アイクはラグネルを握り締めていた。
その彼を見て、マルスは苦しげな表情で笑顔を浮かべた。
胸に抱えた赤い布にキスをして、それをそっと棺に置く。
宙に手をかざすと夜の闇が手のひらに集まり一振りの剣になった。
その剣を目の前に構える表情からは既に弱弱しさは消え、月下の魔王の名に相応しいものだった。
「覚悟は、決めたんだね。」
そう聞いたのはマルスだった。アイクはラグネルを構えて答えた。その声は低く、落ち着いていた。
「お前の覚悟を見たからな。」
ラグネルは白み始めた空の光を受け、静かな光を湛えていた。
「神剣、か。」
マルスが呟く。懐かしそうに。
「僕も昔は持っていた。神剣に選ばれ、神剣を携え、僕だけがそれを使えた。」

「今はもう、触れることすら出来ないけどね。」




アイクは強いと思ってた。
まだ短い付き合いだけど、前の街で受けた依頼の時も、この道中で出くわしたときも、悪魔はアイクの敵じゃなかった。
神剣があるからっていうだけじゃない。いわゆる死線ってやつを何度も越えたからその強さがあるんだろうと思ってた。
アイクはマルスと戦う前、かなり用心していたようだった。相当強いだなんて事も言っていた。
でもそれはきっと僕を脅かしているだけだと思ってた。それかからかっているのか、警戒を促しているのか。
でもアイクと戦っているマルスを見て、本当に強いんだと知ったんだ。
アイクが勝つって信じてる。でも僕は二人の戦いから目を離せなかった。

一進一退の攻防が続き、夜は明けていく。
拮抗する二人の実力に、戦いは長引くかと思われた。


しかし、陽が姿を見せる前に片は付いた。
左の肩口から右のわき腹にかけて、大きく袈裟懸けられ床に倒れたのはマルスだった。

「これを望んでいたんだな。」
マルスの顔を覗き込み、そう言ったアイクに、彼は片眉を上げて血の滴る口で不敵に笑った。
「何の・・事かな。」
「三ヶ月も血を吸っていないと聞いた。この時に合わせて自分の力を弱めていたんだろう。」
「・・・・ははっ。ずいぶんと、買われていたもんだ・・・。」
勝負が付いたのを見て、ピットが駆け寄ってきた。
「・・やぁ天使君。今日は徹夜して大丈夫なのかな?」
「・・・・・・。」
ピットは黙って、赤い布を差し出した。それを見てマルスの表情が切なそうに歪む。
「・・・そうだな。望んでいた。この魔法に二度目はない。どう足掻いたってこれで最後だった。
 もし、もう一度1000年待てば会えるとしても・・・僕にはもう耐えられない。」
受け取ったそれを撫でながら、マルスは目を閉じる。
血を啜れば永遠を生きられるバンパイアでも、これ以上の孤独には耐えられない。
彼は悪魔であり、そして人間だったのだ。
「だから君達が現れたときは思ったよ。これが運命だったと。神剣を携えた剣士を連れた死神が来たと。
 でも君は・・・やっぱり天使だったかな。僕にはもう、後悔は、ないから・・・。」
その言葉がこぼれるや否や、マルスの足が灰になっていった。
それは止まることなく侵食し、さらさらと音を立てて体を崩していく。驚いた表情の二人を見てマルスは言った。
「これが死ぬバンパイアの末路。君たちを利用したようで悪かった。許してくれ。」
いくらか大げさな言いようで、少しふざけたように言ったが、加えた言葉はポツリとつぶやかれた。
「・・・迷惑ついでにもう一つ、頼みがある。」
「・・・なんだ。」
「城の裏に・・・花園がある。そこに一つ、墓もある。そこ彼が眠っている。
 僕の灰を集めて、この服と一緒に埋めてくれないか。彼の・・・傍に行きたい。」
「・・・分かった。」
短く答えたアイクを見て、マルスはまた目を閉じる。しかし、小さく息を漏らし笑った。
「・・・尤も、僕は悪魔になった身。天国の彼のところにはいけないだろう。・・・それでも・・・。」

その表情は安らいで。


それでも



この世<ここ>で一人、月を眺めているよりは
ずっと近くに、いける気がするから・・・。






朝陽を受けて輝く花園。そしてそこにある白い墓石。
その傍らに灰を包んだ赤い布を埋める。
「この花園、綺麗だね。」
「あいつが世話をしていたのかもな。」
昼間に生きられないバンパイアが花の世話をしたところで、光を受けて咲き誇る花を見ることは出来ないのに。
「ピット、今は大丈夫か?」
「何が?」
「ここに入ったとき色んな感情が渦巻いてると言っていたが・・・今は平気なのか?」
「・・・うん。今は前よりはずっといいよ。」
二人の眠る墓を見て、ピットは言った。
「二人とも今は穏やかで、安らいでると思う、よ。」
静かな朝。冷たい風が木々を揺らし、二人の隙間も梳いて行く。
「・・・行くか。」
「・・・うん。」
街に戻る道を歩みながら、ピットはもう一度城を振り返った。
澄み切った青空を背景に朝陽をあびる城は眩しく輝いていた。
永遠の王国の面影を見ながら、二人は荒れた道を辿っていった。


END