人と悪魔【上】

曇天の空。射さぬ光を恋しがるように、林の木々は黒く色を落としている。
10月の終りという秋の真っ只中にしては、冷た過ぎる風がある剣士の頬を撫でた。
首を竦めてマントに口を埋めると、吐く息が白いことに気がついた。
だいぶ北まで来た・・・。このあたりなら、この季節でも雪がちらつくかもしれない。
その前に、次の街へ辿りつかなければ…この中で野宿はごめんだ。
なによりコイツが・・・。
「ね〜アイク〜疲れたよぅ。街はまだなの〜?」
ぐずるように伸びた声が彼の頭の中に響いてきた。
その声の主は今自分の肩に捕まり、半分浮いたようなあしどりで歩いている。
そして自分の肩口で喚いていた。
「もう少しだって言ってるだろ。だいたいお前は人の肩に捕まって浮いているだけだろう。」
「浮くのだって疲れるんだもん。それにずっと浮いてられるわけでもないから歩いてるもん。」
「じゃあしっかり歩け。わざわざ重力に逆らうより楽なはずだ。」
「え〜〜〜。」
こいつの名前はピット。天使らしい。
確かに背中には白い羽が付いているが、にわかには信じられないことだった。


コイツと出会ったのは二週間ほど前のこと。ここと同じような林を歩いている時だった。
「たっ助けて〜〜!!」
突如響き渡った悲鳴に振り向くと、激しい衝撃が体を強打した。
何かにぶつかられたと気が付いて、尻餅の拍子に閉じた目を開けるとコイツがいた。顔面蒼白で目を白黒させながらこちらを見ている。
「ごっごめん!でも緊急事態なんだ!襲われてるんだ!助けて!!」
そう言って人の言葉を聞く間もなく、背中に回り込み身を隠した。
コイツが来た方向を見ると、三つの黒い影がこちらに向かって走ってきた。
そして俺達を取り囲み唸り声をあげている。
「野犬・・・違うな。悪魔か・・・!」
「そっそいつら、僕を狙ってるんだ。食べられちゃうよ…助けて!」
状況を理解した俺は背中に背負っていたラグネルを取り出し、構える。
ずっしりと重いその感覚が手に馴染み、歓喜にも似た高揚感が湧き出してくる。
「そ・・それは・・・神剣!?」
「そうだが・・・。」
「そうだが・・・じゃないよ!人間のクセになんてもの持ってるんだ!でもそれなら・・・悪魔を斬れる!」
「何でもいいが俺から離れるなよ。」

この世界には俗に悪魔と呼ばれる魔物が棲息している。
やつらは特殊な肉体をもち、銀で出来た武器か、このラグネルのように神の祝福を受けた武器でしかまともな傷を負わせる事が出来ない。
この子供を追ってきた悪魔達を片付けると、そいつは神妙な顔をしてラグネルを観察しだした。
「凄い武器だ・・・パルテナ様とは別の、女神様からの祝福を受けてる。
 神剣なんてそんな何本もあるものじゃないのに、なんでこんなどこにでもいそうな剣士が・・・。」
「お前、思ってることが全部口にでてるぞ。」
そう言うと、そいつは驚いたように立ち上がり、ヘラヘラと笑う。
一つ咳ばらいをして、俺の顔をじっと見つめて言った。
「助けてくれて有難う。僕はピット。天使なんだ。」
「・・・はぁ?」
俺が思わず気のぬけた声を出すと、きょとんとした顔をして背中のそれを広げてみた。
「…それ、本物か?」
「もちろん。血の通った翼だよ。見たことないの?天使。」
「ラグズならあるが・・・。」
確かにラグズとは少し違うようだ。
「まぁ無理もないか・・・今はほとんど地上界に下りないから。危ないし。」
「悪魔の影響か?」
「うん。悪魔は天使の血肉が大好きなんだ。うかつに降りたりしたら食べられちゃう・・・。」
「じゃあ、お前はどうしてここに?」
「実は天上界で悪〜い奴らとちょっと小競り合いがあってね。戦ってたら、拍子に落っこちちゃったんだ。」
「ふむ・・・。なら飛んで帰ったら良いんじゃないのか?」
文字通りに。俺がそういうと、今までよく動いてた口を急につぐみ、むすっとした顔をした。
「・・・・・・まさか。」
「そうだよ!飛べない天使だっているんだよ!出来るものならとっくにやってるよ・・・こんなとこ・・・。
でも落ちてくる時だって地面にたたき付けられないようにするので精一杯だったのに・・・あんな高いところまで・・・パルテナ様ぁ・・・。」
顔をくしゃりと歪め、今にも泣き出しそうだ。俺は慌てて言葉を捜した。
「いや、その、すまん。知らなかったんだ。何とか帰る方法はないのか?」
聞くと、ピットは拗ねたように口を尖らせて、じっとりとした目でこちらをみている。
「僕がいなくなったのには皆、気がついているはず…きっとそのうち迎えがくる。それまで頑張れば・・・。」
カチリと目が合って、俺の全身を嫌な予感が駆け抜けた。
「ねぇ、お願い。それまで一緒にいさせて!その剣を持っている貴方なら悪魔もうかつには近寄れない。邪魔はしないからさ!」
やっぱりそう来たか。しかし俺は宛てのない旅の途中で、目的は漠然と『武者修業』だ。
たどり着く街で悪魔退治を引き受け日銭を稼ぎ、気の向くままに足を動かしているだけなのだ。
なんの保証もない旅にこんな子供を入れるのは・・・。
「お願い!天使助けだと思って!」
「俺の旅には寝床や食い物の保証はないぞ。野宿だって多いし、これから北へゆくつもりだから寒くもなる。本当にいいのか?」
「命が助かるならなんだっていいよ!・・・天上界の状況も気掛かりだし、こんな所で死ねない・・・。お願い。天上界に帰りたいんだ・・・。」
「・・・お前がそこまで言うのなら、俺は構わん。」
「やったー!有難う!無事に天上界に帰れたら、貴方が死んだ時に天国に行けるようにその管轄の神様に口添えするよ!」
「・・・あぁ、なんだか嬉しいのかどうなのか微妙な所だな。俺はアイクだ。宜しく頼む。」
「うん宜し・・・・・・うわーーー!!」
ニコニコした顔を一変して、素っ頓狂な悲鳴をあげだした。
「こ、今度は何だ・・・。」
「ない!神弓がない!!一緒に地上界に落ちたのに!あれをなくしたら・・・・・・・・・。」
見る見るうちに再び青ざめて行くそいつの顔を見兼ねて、俺も探すことになった。
神弓とやらは悪魔に襲われた時に落としたようで、それは程なくして見つかった。
ラグネル同様、神の祝福を受けた武器であり、こいつの仕えるパルテナという女神から授かった大切なものなのだそうだ。
こうして、コイツは加わった時から現在に至るまで実に騒々しいやつだった。


林が開けると、小だかい丘の上にでた。
「ほら、あれが次の街だ。」
「ほほー。アイクって案外適当に見えて目的地にはちゃんと着いてるよね。」
「(実際、適当に歩いてるんだが・・・。)街に近くなってきたんだから、人に見つかる前にその翼隠しておけよ。騒がれると仕事もままならん。」
「はーい。」
前の街で買ってやったコートを羽織ったのを確認すると、少し急な坂を下りはじめた。
すると、ピットが声を上げた。
「あっ!見てあれ!」
指さす先には、森の中に埋まるようにそびえ立つ城があった。
「すっごい大きなお城!」
「・・・この辺りの地主の城か・・・?いやしかしあれは・・・。」
どうみても廃墟だった。元は白塗りだったであろう城壁も、長い歳月を放置されていたのを表すように、ある所は崩れ、ある所は黒くくすみ、曇天の白い空に映えている。
「お化けが出そう・・・。」
「悪魔がいそうだな。食いぶちだ。」
街についたら、あの城の事も情報収集する必要があるだろう。
そう心に置いて、俺は再び坂を下りだした。


夕暮れ時を一刻ほど過ぎてから俺たちは街に辿り付いた。
情報収集やら仕事探しやらは明日にまわし、宿をとった後その酒場で食事を取ることになった。
ようやく一息ついて、出されたジンジャーエールを一口飲むと、向かいに座ってるピットが皿のソーセージをつつきながら言った。
「ねぇアイク。前の街でもそうだったけど、アイクってこういうところが好きなの?
 お酒や煙草の匂いが充満して、あと何か、香水かな?凄く空気淀んでるよね。デリケートな天使的にはあんまり宜しくないんだけど。」
「好き・・・というか、街の大衆料理店なんてだいたいこんなものだ。酒場は宿屋と一体になって件食事処なのが普通。
 高級な店を選べば違うかしれんが、俺は寧ろそういう方が苦手だし、そんな余裕もない。」
「そりゃーまぁ・・・このソーセージだっておいしいよ?ポテトもおいしいよ?でもさーこういうところにいるとさぁ・・・。」
「おいおいおい何だこいつらぁ。」
天使が肉食っていいのか・・・などと、アイクがぼんやり思った時、隣に人の気配がしてついと目をやると、数人の男と女がいた。
「ほら来た。」
「・・・・・・・・。」
「ここは酒場だぞ兄ちゃん。ガキが来ていいようなところじゃねぇんだよ。さっさとウチに帰ってママの乳吸って寝な。」
舌足らずな口調で男がそういうと、連れの者達が同調するように笑った。
「ねぇアイク。前の街でもそうだったけど、僕達がこういうところにいると、こういう輩に絡まれるのはお約束なの?」
「酒を飲んで気が大きくなってるんだ。仕方ないだろ。」
「なんだとテメェ!大人をバカにすんじゃねぇぞ!?」
「あぁ、すまん。そういうつもりで言ったんじゃないんだ。あんたらの邪魔をするつもりはないからこっちのこともほっといてくれないか。」
「こいつ人が寛大な態度を取っててやれば調子に乗りやがって・・・!!」
こういうとき、自分の言葉足らずなところを呪いたくなる。
完全に頭に来た顔で腕まくりをしだした男を見て、アイクは心底面倒くさそうな顔をして立ち上がった。
他の客達は良い見世物だといわんばかりに盛り上がり、歓声を上げている。店全体の空気が高揚していくのを肌で感じた。
「で、アイクにボコボコにされるのもお約束なのね。剣は?」
「いらん。酒場に喧嘩はつき物みたいだな。」
「僕も手伝う!」
ピットはイスから勢い良く飛び降りて、腰の背に隠した神弓を構えた。
「バカ!それを出すな!」
「えー!アイクだって神剣持ってるじゃん!遠慮せずに使えばいいのにー。」
「遠慮するだろ普通!殺す気か!?」
「神剣だと!?」
酒場がシンと静まり返り、さっきまで飛び掛りそうな勢いだった輩も驚いた顔をしてアイク達を見ていた。
「・・・お、おめぇら、本当に神剣持ってんのか?」
「え、あぁ。まぁ・・・。」
「・・・・・とうとう来たのか。」
「「は?」」
予想にしない相手の言葉に、二人はお互いの顔を見合わせた。

男の話によるとこうだ。 この街はもうかなりの長い間、悪魔の被害に苦しんでいるという。 それは街の北の古城に住むというバンパイアの悪魔で、たびたび街に降り立っては若い女を襲って血をすするのだ。
「それでずーっと悪魔討伐してくれる人募集中かぁ・・・。」
「この話自体、伝承級の古さでそれによれば1000年もの間らしい。
 いくらなんでもそれはないだろうが、それでも長い間、討伐に来たものをことごとく返り討ちにしてるらしい。相当な強さの悪魔だな。」
「・・・・引き受けるの?」
「あぁ、腕試しには丁度いい。」
磨き上げたラグネルを月明かりにかざし、アイクは答えた。
「明日ここの町長とやらに会いに行く。街を上げての依頼みたいだから、報酬も相当いいようだし、願ったり叶ったりだ。」
「あーあ・・・相当強い悪魔かぁ・・・きっともう魔王みたいにでかくて強くてでっかい口で僕は一口で・・・。」
「バンパイアなら人型でさほど大きくないだろう。怖いならここで留守番しててもいいぞ。」
「えっ!?イヤだよ!僕もついていく!一人になるほうが怖いよ!!」
「一口でオヤツみたいに喰われても知らないからな。」
「アイク酷い!ちゃんと守ってよね!」
やいのやいのと騒ぎながら、二人はその日、眠りについた。
澄み切った夜空には星が瞬き、冷たい色の月がぽっかりと浮かんでいた。


翌日の昼過ぎ、アイクとピットはこの街の町長の家を訪ねた。
もしかしたら門前払いされるかもしれないとアイクは思ったが、二人の噂は瞬く間に街中に広まっているようで丁重に通された。
人々のこのあり様からして、どれほどまでにこの街で例の悪魔が猛威を揮っていたかが分かる。
すれ違う人からこの屋敷の使用人にいたるまでが緊張の糸を張らし二人を見つめていた。
応接室に通された二人はソファーに座るように促される。古い木造のテーブルを挟み、町長と思しき人物が二人の目の前に座った。
周りには家族と思われる者達が数人立っていた。杖を片手におぼつかない所作の白髪の老人は相当の年配に見えた。
「お話は伺っております。貴方さまが神剣を持たれる剣士さまだとか。」
「俺はアイクだ。こいつは旅の連れでピット。早速だが、北の古城に住まう悪魔退治の話を聞いてあんたを訪ねてきた。」
「そこまでご存知でしたら話は早う御座います。どうか北の古城のバンパイアを討伐してくださいませ。それ相応の報酬はご用意させて頂きます。」
「・・・・・相手の悪魔のことを良く知りたい。引き受けるかどうかはそれからだ。」
老人はうんうんと頷いて、しかし少し考えるようにうつむくと、重いため息と共に再び口を開いた。
「・・・・・すこし話は長うなりますが、よろしいですかな。」
「・・・構わない。」
アイクの返事を聞いて、老人は静かに、ゆっくりと話し始めた。

話は大昔に遡ります。その頃、この辺り一帯は一つの国でした。
あの古城は、その時、国を治めていた王族が住まわれていた場所。当時の王家には一人の王子がおられました。
文武両道に長け、天才を形にしたかのようなとても卓越したお方だったと言い伝えられております。
国の守りも強固そのもの。山賊一つ寄せ付けない、とても平和で、豊かな国でした。
その王家を継がれる王子にはとても親しいご友人がおられました。
そのお方は、この国の王家に仕え属する領家の一つ、その嫡子さまでした。
王子が嫡子さまを側近として傍に置いたその日から、若き二人の跡継ぎは互いに支え合い、
他のどの臣下たちとよりも、はたまたどの姫たちとよりも、共によく過ごされていたとの話です。

しかしある日。
王族の遊戯である狩りをこの付近の林で行っていたとき、領家の嫡子さまが流れ矢にうたれました。
実際それは流れ矢などではなく、王子暗殺をもくろむ輩による凶矢だったのです。
それをかばわれたのか、または風に吹かれたのか分かりませんが嫡子さまに・・・。
程なくして、嫡子さまは亡くなられました。王子は狂ったように悲しまれ、その頃から少しずつ変わられていった。
怪しげな術の研究に没頭され、政務を怠り始めたのです。
王や王妃が亡くなられているこの国で王子までもが政治から離れ、この国は次第に荒れてゆきました。
盗み。殺し。犯罪が横行し、栄光の王国は見る影もなくなりました。
ついに反乱勢力がクーデターを起こし、その軍勢が城へ攻め入ったのです。
弱った王の軍は破られ、ついに王子のいる王の間の奥の塔へとたどり着いたのです。そこで彼らが見たのは。
既に人の姿をしておられない王子でした。
王子は反乱軍をことごとく手にかけて行ったのです。たった一人を残して。
そしてその者にこう、言ったのだと言います。

「僕は人の体を捨て悪魔になった。これから1000年の間、僕は生き続けなくてはならない。
 そして僕は生きる為に、人の血を吸わねばならない。我が民には僕の命の糧になってもらう。
 今ここに、この王政を壊し、新たな国を築くことを認める。
 しかし、僕の命を狙いにくる輩があれば、容赦はしない。」

そう、皆に伝えるようにと言い残されたそうです。
そして王家は没落。この街はその後、民の手によって再建された街なのです。


「むちゃくちゃだな。」
アイクは思わず呟いていた。老人も重くため息をついていた。
「それから実に1000年。王子だったバンパイアはこの街を訪れ、夜な夜な若い娘の血を吸いに来るのです。」
「本当に1000年も・・・!?今まで退治しようとしたことはないの?」
驚き半分、呆れ半分の口調でピットが言うと、老人はゆっくりと首を横に振った。
「もちろんしましたとも。僧侶、シスター・・・高名な司祭様までお呼びして、あの悪魔を退治してもらおうと。
 しかし・・・駄目でした。あのバンパイアは他の悪魔同様、特殊な武器でしか傷を付けられないだけでなく、体を霧と化してしまうのです。今までにお頼みした方は全て・・・。」
「死んだ・・・か。」
「しかし今は、これまでと状況が違います。」
「・・・どういう意味だ。」
「王子は・・・あのバンパイアはこの三ヶ月の間、血を吸いに街に降り立っていないのです。
 理由は分かりませんが断食と同じ状況のはず。今ならばしとめることが出来るやも知れない。」
「そこに神剣を持ったアイクが現れた。これは神の思し召しとしか思えないか。」
本当のところどうなのか分からないけど、とピットは付け足した。
「アイクさま。我々は実は、当時王家に仕えていた臣下達の末裔なのです。
 我々が忠誠を誓った王家が滅び、その尊き血をもたれる王子があの姿になり・・・これほど悲しく、悔しいことはありません。
 それでも我々には王子を1000年の長きにわたる苦しみから救って差し上げることが出来ないのです。」
老人は立ち上がり、深々と頭を下げた。今まで一言も発さずことを見守っていた周りの者達も同様にこうべを垂れる。
「どうかお願いします。その剣で、王子を討って下さい。我らの街のためにも、王子のためにも、この悲しみの霧を晴らして下さい・・・!」
王子に安らかなる眠りを。民に安寧を。
「・・・一つ、条件がある。これは俺がいつも仕事を受ける前に、最後に確認して承諾してもらう事だ。」
老人は頭をあげ、固唾をのんでアイクを見詰めていた。
「俺は、悪魔を斬る事が出来る剣を持つ、一介の傭兵に過ぎん。
 あんたらが今までに頼んできた司祭やらシスターやらと違って、俺には浄化するといったことは出来ない。ただ、斬るだけだ。それでも構わないか?」
老人は目を手で覆い、か細く枯れた声で、搾り出すように答えた。
「・・・・・お願いします・・。どうか、王子を・・・。」
いいながら震える老人の枯れた皮膚に幾重にも刻まれた皺を、泪が伝いしとしとと滴り落ちていった。
「・・・分かった。この仕事、引き受ける。」
ありがとうございます・・・ありがとうございます・・・。
老人の嗚咽交じりのその言葉が、ただただ、部屋に響いていた。