滴る血が地面に赤黒く色を落として沈む。
鋼の牙が容赦なくえぐったロイの足は痛みすら麻痺して、まるで動かなかった。
ウォルトは負傷した主君を担ぎ、襲い来る敵をどうにか跳ね除け、やっとの事で二人は森へ逃げ込んだ。
荒い息を沈めようとするが、ウォルト自身も右肩に傷を負っていた。血が滴り落ち、鼓動に合わせて激痛が走る。
その傷は医学の知識に乏しい自分にも、弓の命を絶つに足るものだと容易に想像させるものだった。
周りには敵軍が未だに自分たちを探している。
今動くのは危険だとしばらく身を潜めることにしたが、出血の酷いロイの顔色は見る見るうちに悪くなっていった。
一刻も早く治療を行わなければロイの命が危ない。
弓を引けなくなった自分が出来る事をウォルトはたった一つだけ思い立つことが出来た。
自らの傷をえぐりあふれ出た血を自らの髪に塗ったくった。
信じられないという表情で自分を見るロイを他所に、彼の薄緑の髪は汚れた赤茶へと変化していった。
「ロイさま、お借りします。」
ロイから青い外套を脱がすと自らに羽織った。
フェレの将軍は少年の年恰好に赤い髪。青い衣。首を上げれば恩賞は思いのまま。
その姿は敵兵達が血眼になって探している自分と似ていた。
いやな予感が背筋を駆けた。何がどうと言う説明をする前に、ロイは否定を叫んでいた。
「馬鹿な真似はするな・・・駄目だ!!絶対に駄目だ!!!」
「ロイさま。」
喉が裂けるようなロイの叫びを血に塗れた手のひらが制した。
自らの声に気がついたロイは、奥歯を噛み締めて、泣きそうな顔でウォルトを見つめた。
彼はふっと笑い無事な腕でロイを抱きしめた。
こみ上げてくる想いがあって、お互いに言葉が上手く出なかった。
「ォ・・・ルトッ・・・!!」
「ロイさま・・・すみません。」
「いやだ・・・!」
「僕にはもう・・・こんなことしか・・・。」
「絶対に嫌だ!!」
「もうしばらく辛抱すればきっとアレンさまとランスさまが・・・。」
「駄目だって言っているだろう!!僕の命令が聞けないのか!!」


しばし沈黙。


「すみません・・・。」


そう呟いて、ウォルトは立ち上がった。
逃がすまいと腕を伸ばしたロイだったが、途端、走る激痛にもだえた。
「ウォルト・・・・!」
血の滴る肩をかばいながら、ウォルトは踵を返した。
「ウォルト!!!」

ウォルトは、振り向くことなく走り去っていった。




これが自分に出来る最後のこと。
全てはロイさまのため。
全てはロイさまのお役に立つため。

それは本当に?


いや・・・きっと違う。

ウォルトは思わず苦笑した。
ロイさまのためなどと言いつつも、本当は全て自分のためなのだ。
ロイを失いたくない。どんなことがあってもロイを守りたい。
それは自分の我侭である事に気が付きながらも、彼のためという言葉で綺麗に飾っていた。

それでも


『ロイ』の姿を見た敵軍の兵達は大騒ぎになった。
歩兵や騎馬兵で彼を追いかけ、ついにはその足を一本の矢が貫いた。
吹き出した血が地面を汚し、転げた彼を追い詰めた。
もがく彼の右腕をひねり上げると、もとより負傷していた傷をえぐり、その痛みに悲痛な叫びがあがった。
その様に兵どもの息が荒くなっているのを『ロイ』は見て顔をしかめた。
周りには欲にゆがんだ顔が自分を覗き込み、その時を今か今かと待ちわびている。
大きく振りかぶった剣は鈍い光を放っていた。
「フェレの将軍・・・討ち取ったり!!」


それでも


ロイさま


僕はあなたの

お役に立てましたよね・・・



というウォルロイの神託があって勢いで描きました。
ウォルロイいいね。乳兄弟萌え。





ウォルトさんの血なしバージョン