ビスケットの袋が散乱している、シンプルな風体の部屋に2人はいた。

今宵は満月。その部屋からは、月がよく見えていた。







『ヤサシイネ』







「へぇー、この部屋から月って見えたんだ」
窓から月を見上げる少年は、嬉しそうに声をあげた。
「向こうの世界では見れたの?」
真っ直ぐな視線で少年を見つめる青年は、柔らかい口調で少年に聞いた。
「ううん。見てるヒマ、無かったし」
寂しそうに呟いて下を向いてしまった少年を見て、青年も「そっか」とだけ呟いて黙った。
「・・・・・そういえば、ロイがこっちに来た日の夜も、こんな満月だったね」
窓の外の月を見て、青年が呟いた。
「そうだっけ?」
きょとんとして、ロイと呼ばれた少年が聞き返した。
「あ、俺が来た時すぐに撮った写真が一枚・・・・」
そう言ってロイは、そばに置いてある大き目のタンスの引き出しを片っ端から開けて覗き込み始めた。
「・・・・・・あった〜!これこれ」
写真立てを1つ持って、青年との間にテーブルを挟んだイスにロイは座った。
「ほらー、マルスこんとき今よりちょっと背、低くてさー爪先立ちしてたんだっけ?」
「それを言わないでよ・・・今はロイよりも背が高いからいいんだよ」
「むっ、それをいうなぁ!」
ぷっ、と頬を膨らましてマルスを少し上目使いで睨んだ。
「怒んないでよ。そういえばさ、この頃ロイ、まだ髪が少し短かったから『坊』って呼ばれてたよね」
「そっ、それだけは言わないでくれ・・・」
ガクーっとテーブルに突っ伏して手をパタパタとさせるロイの姿は、マルスを笑顔にさせた。
「ロイは、メンバーの最後の1人で、一番みんなに歓迎されてたよね」
マルスは、懐かしそうに目を細めて話し始めた。
「ロイが玄関の近くまで来た時さ、カービィとマリオが飛び出してロイにぶつかってさ、キレちゃったロイが剣抜いて2人切りつけてさぁ、みんなで止めに入ったっけね」
「そうだっけ?」
はは・・・と苦笑してロイが頭を掻いた。
「そうだったよ。『なにすんじゃおのれらー!!』とか叫んでたじゃん」
「・・・・・」
「自己紹介の時はさ、ものすごい丁寧にしゃべっててさぁ、カービィとマリオ、めっちゃ驚いてたもん」
「るせ。初対面の人には敬語使って礼儀正しくろって父上に言われてたんだよっ」
もう一度、ぷっと膨れて言う。
「1ヶ月経ったら本性だし始めてさぁ、僕って言ってたのに俺って言い出すし、言葉荒くなるし、部屋汚いし」
近くにあった空のビスケットの袋を手に取り、ロイの目の前でひらひらとさせる。
「慣れたんだし・・・・」
「キレると手におえなくてさぁ・・でも、やさしくて」
「・・・・・・・」
「誰にでもやさしくてさぁ、みんなに好かれて、ある意味アイドル的存在だったよね」
ふっと笑ってマルスはロイを見つめた。
「ある意味・・・ってどーゆう意味だよ」
バンバンとテーブルを叩いてロイは口を尖らせた。
それを見てくすくすと笑いながら、マルスは話を続けた。
「誰にでも同じ態度でさ、同じように笑うし、同じように怒るし、喜怒哀楽がすっごい激しいし」
「なんだよそれ・・・イヤミか?」
「表情豊かって言ってるんだよ」
「とてもそうには聞こえねえなぁ」
あきれた顔でロイはマルスを見た。
「そんならマルスだって、静かで、冷静沈着で、何事にも動じないじゃないか」
「それは冷たい男と言っているのかな?」
さわやか過ぎる笑顔でロイを見る。
「よくわかったな」
悪戯っ子の目で、それを見返す。
「で、一番最初に仲良くなったのが、マルスだった」
「うん」
小さく笑い、口の前手を組んで目を伏せる。
「俺と同じような立場の人間がいるなんて知って、すげぇ嬉しかった」
「うん」
「でも、みんな結局同じような立場だったんだよな」
伏せていた目を静かに開けた。
その後、互いの目が合い、ぷっと吹き出す。
「こんな事話すなんて、俺たちらしくねぇよなぁ!」
はは、と笑ってマルスを真剣な眼差しで見つめる。
「・・・・でも俺は、みんなにに会えてよかった。・・・マルスに会えて、よかった」
「そうだね・・・」
マルスはロイの頬を左手で撫で、身を乗り出し、その頬に軽いキスをした。
それは、2人にとって既に日常茶飯事であり、ロイは素直にそのやさしいキスを受けていた。
すると突然、マルスの唇がロイの唇に重なった。
「・・・ん・・・!」
ロイは閉じかけていた目を見開いた。
触れていたのはほんの数秒で、互いの唇はすぐ離れた。
「・・・・バカマルス」
顔を赤く染めたロイがマルスを見る。
「僕は、ロイのことが好きだよ?」
マルスの言葉を聞き終えると、ロイは静かに立ち上がって隣の部屋のソファーに腰を下ろした。
「・・・・・・こっちのほうが、月キレイだよ」
月を見上げたまま、感情の無い声でマルスを呼ぶ。
静かに近づいて腰を降ろし、マルスはロイに聞いた。
「・・・・怒った・・?」
「さぁね」
相変わらず、月を見たまま答える。
まずかったかなー・・・とマルスが考えていると、ロイが声をかけた。
「びっくりしただけだよ。されたことなかったし」
にへらっと笑ってマルスを見上げる。
「ねぇ、もっかいして?」
小首をかしげて迫るロイ。
「いいの?」
その問いに、こくん、と頷いて体ごとマルスに向け、目を閉じた。
ロイの少し赤くなった頬に左手を添え、右頬にキスをした後、その形のいい唇に口付けた。
「・・・・・・・・ん・・・」
慣れないキスで酸素不足になったのか、苦しそうな声を出したので、マルスは静かに唇を離した。
「・・・はっ・・」
唇を離すと、ロイは浅い呼吸を何度も繰り返した。
「・・・苦しかった?」
「・・・・・ちょっと、ね」
また、にへらっと笑ってマルスを見る。
「・・・俺も、マルス好きだよ」
もそりと立ち上がると、マルスの足の間に座った。
「みんな好きだよ。でも、マルスだけは特別」
振り返って、マルスと向かい合わせになり、そのしっかりとした胸に身体を預けた。
「最初は、みんな同じくらい好きだと思ってたけどさ、だんだんマルスが好きになってくのがわかって・・」
そこまで言うと、何故かロイは涙をこぼしてしまった。
「どうしたの?」
やさしく、声をかけると、声をしゃくりあげながらぽつりぽつりと話した。
「だって、マルスを好きなの・・・・ひっく・・・バレて・・・・嫌われたら、ひっく・・どしよ、って・・・・」
マルスはそんなロイの可愛らしいところを見て、苦笑した。
「・・・僕がロイを嫌いになるなんてことあるわけ無いじゃないか」
「でもっ・・!・・・・っ・・」
次の言葉が出る前に、ロイの唇は塞がれた。
「・・・・んっ・・・・は、ぁ・・・・」
さっきのような重ねるだけのキスではなく、もっと深いキスがロイに送られた。
舌が侵入し、ロイのそれを絡め取る。
「・・・・・ふ・・・ぅん・・・」
意識全てがマルスに集中していくのを感じながら、そのキスを受ける。
それほど長いキスでもなかったが、ロイにとっては1時間ほどに感じられた。
「これでも信じられないかい?」
やさしく微笑みかけるマルスに、ロイはふるふると首をふった。
「ありがと」
満面の笑みで、マルスに言った。
「・・・・・そういうやさしいロイが、僕は好きなんだよ」
「・・・?どうゆー意味?」
きょとんとして聞くロイに、にこりと微笑み、「内緒」と答えた。
ぷーっとふくれるロイの頭を撫で、「そのうち話すよ」と言って、太陽の香りのする赤い髪に口付けた。
そんな2人を、キレイな満月だけが静かに見ていた。






いつまでも、その笑顔は僕だけに下さい。








あちょがき(謎)
こんにちわ、藤成です。
お誕生日SS!と言う事で気合入れたのですが、遅れるし謎いし、申し訳の無いのになってしまいました。
葉月様、申し訳ありません・・誕生日に遅れてしまい、とんでもなく謎なコレを、よろしければもらってやってください・・・。
そして、お誕生日おめでとうございます!(激遅)

9月 10日   藤成 亮