神様
「神様ってさ」
空がとてもきれいに晴れた日の、昼間のこと。
屋上でぼんやり、休憩をとっていたロイが唐突に呟いた。
「神様って、人を救うものじゃないよね」
青い空を見上げながら呟いたロイに、マルスが怪訝な顔をする。
「………いきなり、どうしたの?」
「別に。何となく」
ゆっくりと、ロイは掌を空に伸ばした。
「だってさ、人を救ってくれるものだったら……きっと世界はもっと平和で」
一つ、息を吸い込んで。
「この手はこんなに汚れなかった」
そのロイの言葉に、思わずマルスは彼を見た。
「ロイ………」
「神様は、誰も救わない」
広げていた掌をぎゅっと握り締める。
「ただ、苦しい時に人が縋るだけの存在だよ。神様は誰も……救ってくれない」
普段明るいロイの蒼い瞳は、太陽の下だというのにどこか影があった。
15歳の少年の肩には、重すぎる十字架が背負われている事をマルスは改めて実感した。
「………ごめん。何言っているんだろう。忘れて、今の」
ははは、とロイが軽く笑って、腕を下ろす。
けれども蒼い瞳に出来た影はまだ消えていない。
「……ごめんね」
やっと、マルスの口から出た言葉はそれだった。
「苦しいのに気付いてあげられなくって、ごめんね」
下ろされたロイの掌に、自分の掌をそっと重ねる。
「重かったよね。苦しかったよね」
自分も味わったことのある苦しみ。だからこそ目の前で苦しむ少年を少しでも其れから救いたかった。
ぎゅっとロイの身体を自分の傍に抱き寄せる。
「これからはその苦しみを………僕も一緒に背負うよ」
その言葉にロイがマルスを見上げる。
「マルス………」
「だからもう一人で抱え込まないで、ね?」
優しい、深い蒼に覗き込まれて、ロイの瞳から影が消える。
「………うん」
いつもの笑顔に戻ったことを確認して、マルスも安心したように笑みを零した。
「よし」
マルスは満足気に言うとクシャリとロイの髪を混ぜ返した。
「もう大丈夫そうだね」
「………何か、子ども扱いしてない?」
「そうかな?そんな事無いよ」
(その笑顔で言われると、何か返す言葉なくなるんだよな〜)
頭を撫でられながらもロイはそう思う。
ふと、次の大乱闘を告げるアナウンスが遠くから二人の耳に届いた。
「次、マルス大乱闘じゃなかったっけ?」
「そうだった。じゃあ行って来るね」
大乱闘の会場に向かうマルスの後姿。
その姿を見送っていたロイが思いついた様に小さく呟いた。
「………神様」
「…え?何か言った?」
聞き返してきたマルスに、何でもないよとロイは笑って答えた。
「試合、頑張ってね」
マルスの後姿が、見えなくなる。
「カミサマだよ、マルスは僕の」
誰にも聞こえないくらい小さな声でロイは呟いた。
どんな悪夢からでも、自分を救ってくれる。
「僕だけの、カミサマ」
―どうかいつまでも、貴方の傍に居させて下さい―
誰にでもなく、小さく祈るとマルスの応援にロイは駆けていった。
……うまく言いたいことが纏められてない。
そしていつに無くロイが弱々しい。
とにかくロイにとってマルスは絶対的な存在だということで。