Fire Works

       「あ〜っカービィ!ダメだよ、いっぺんに火をつけたらー!」
       今夜はスマデラ寮の花火大会。
       大会、と言ってもただ皆で花火をやるだけなのだが、流石にスマデラメンバーだけあってあたりはかなり賑やかだった。
       「ミュウツー、花火は念力で持つんじゃ楽しくないよ〜」
       「そうなのか…?」
       「そうそう。花火はね、手で持つんだよ」
       ネスがミュウツーに花火の楽しみ方をレクチャーしている横では
       「この火で………ファルコ焼けないかなぁ………」
       「カービィの目がマジだー!」
       「誰か止めろー!!」
       と、皆の話し声(たまに叫び声)が耐えることなく響いていた。
        その喧騒から少しだけ離れた場所で、マルスとロイの二人が花火をやっていた。
       「きれいだねー」
       「そうだね」
       暗闇に朱や緑の炎が浮かぶ。ちらりと、マルスが横にしゃがんでいるロイを見た。
        花火でできた小さな光に、ロイの蒼い瞳と赤い髪が浮かび上がる。思わず見とれてしまうくらいに可愛らしい。
       「……ス、マルスっ」
       「えっ、何?ロイ」
       「花火、消えちゃってるよ」
       言われて、自分の手の花火に慌てて目を向けると火は何時の間にか消えていた。
       「はい、新しい花火」
       「あ……ありがと」
       マルスに新しい花火を手渡すとロイは再び自分の花火に目を向けた。蒼い瞳が色とりどりの炎を映し出す。
       「ロイ」
       「…何?」
       花火から目を離さずに、ロイは答えた。
       「……夢中だね、花火に。そんなに面白い?」
       そんなロイにぽつりとマルスが呟いた。
       「面白いって言うか……もったいないじゃん」
       「もったいない?」
       「花火」
       そう言った直後、ロイが手に持っていた花火が消えた。ふっと、辺りが暗くなる。
       ロイは消えた花火を水の入ったバケツに入れた。
       「花火ってきれいだけどさ…すぐ終わっちゃうから。だからしっかり見ててあげないともったいないじゃん」
       新しい花火を手に取ると、ロイはそれをマルスに差し出した。
       「折角の花火大会なんだから、マルスもやろうよ」
       けれども、マルスはその花火を受け取らない。
       「いいよ、僕は」
       「何で」
       「いいから、ロイ一人でやっていいよ」
       マルスが微笑って言うが、ロイは不服そうな顔をした。
       「ヤダ。マルスも一緒にやろうよ………じゃないと、折角二人きりで花火できるとこ来たのに意味無い…から」
       ロイのその言葉にマルスの顔が柄にも無く紅く染まったのは、暗闇の中で何とかロイにはばれなかった。
       「花火……皆でやるのも楽しいけど……やっぱり好きな人と………マルスと二人きりでやりたいと思ったんだ」
       (ああ、そういえば)
       何で、マルスとロイの二人は皆から少し離れた場所で花火をしていたのか。
       (『此処じゃ騒がしいから、向こう行ってやろう』って言って、ロイがこの場所に連れて来たんだっけ)
       暗闇の中でよく見れば、ロイの顔も真っ赤だった。
       「僕がこういうこと言うのって、滅多に無いんだから………」
       確かに、ロイの方から二人きりになろうとしてくるのは珍しいことだった。
       「そうだね」
       「やろう、花火」
       「うん」
       辺りが再び花火で明るくなった。

        殆どの花火をやり終えて、残っているのは線香花火だけになった。
       「そういえば、マルス」
       相変わらず、ぱちぱちと弾ける花火を見つめながらロイが言う。
       「何?ロイ」
       「何でさっき、花火やろうとしなかったの?」
       「ああ……あれね」
       ちょっとマルスが言葉を濁す。
       「………花火よりもさ、ロイの方を見ていたかったから」
       「………は?」
       「花火をやってるロイの方が、ずっと可愛かったから」
       −ぽと
       思わずマルスに振り向いた衝撃で、ロイの線香花火の火玉が落ちた。
       「あ、ロイの線香花火終わっちゃた」
       「だっ………だっていきなりマルスが可愛いとか言ってくるから………っ」
       顔を真っ赤に染めながらロイが言う。
       「あーぁ、花火勿体無い」
       「誰のせいだと思ってるんだっ。大体僕は男なのに可愛いなんてっ」
       「可愛いんだから仕方ないよ」
       「嬉しくないっ、全然っ」
       「其処のお二人さ〜ん、そろそろ終わりだよ〜」
       遠くからカービィの声が掛かるが、マルスとロイの二人の痴話喧嘩は止まりそうに無かった。
       「おアツイね、あのお二人さん」
       ネスがマルスとロイの二人を見ながら言う。
       「本当、いちゃつくんならベッドの中でやればいいのに」
       カービィが呟いた言葉に、その場にいた全員が固まった。
       「………ねぇ、ぴかちゅうのおにいちゃん。べっどのなかでってな………」
       「も、もう寝る時間だよっピチュー!」
       「ねぇ、おにいちゃんてばー」
       「カービィっ、お前どこでそんな言葉をっ」
       フォックスの問い掛けにもカービィは
       「さーねー」
       と、はぐらかして寮に戻ってしまった。

        こうして、マルスとロイの痴話喧嘩と、カービィは何処からヘンな言葉を知ったのかという謎を残してスマデラ寮の花火大会は幕を閉じた。



       終わり